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 そこは、とある資産家の家の、まだ幼い娘の部屋だった。壁や天井に気品あふれる装飾が施され、小さめのシャンデリアが暖かな光を広げている。濃厚で、それでいて落ち着く古物の香りで満たされていた。
 天蓋の付いた乳白色のベッドの、ピンクで染められた布団の上に、飾りの少ないドレスを着た少女がこしかけていた。かっと目を見開き、真向かいに置かれた小さなソファに座る彼を突き刺す様に見ている。彼はそれに視線を合わせるわけでもなく、ふーっ、と小さくため息をついた。
 そのソファの後ろで不安げに、少女と彼を交互に見ていた資産家とその妻が、ようやく意を決して彼に聞く。
「す、スタナーさん……?」「メリルは……娘は……?」
「んー」スタナー、と呼ばれ、彼はうなずいた後、二人の方へ振り向いた。「もう大丈夫だと思うけど?」
 彼がそう言った瞬間、目の前の少女が急に顔をこわばらせ、くしゃくしゃにしたかと思うと、大粒の涙をぼろぼろこぼして、
「……おっ、お、おとーさまぁぁぁーおかぁぁぁさまーあーん!!」
 と泣き叫びながら立ち上がると、彼の脇を通り過ぎて資産家夫婦に抱きついた。
「メリル! メリル! 元に戻ったんだな!」「メリルちゃん……ほんとに良かった……」
「おとぉおさまあああおかあぁさ」
 泣きながら抱き合う3人をよそに、彼は、自分のデジタル腕時計を見て二人に聞こえない様につぶやいた。「――5分かよ。ありがたみねえな」それから、ソファの脇に置いておいたデニムのジャンパーと黒いリュックサックを黙々と身につけはじめた。
「あっ、スタナーさん!」
 帰ろうとドアの方へ歩く彼に気づいた資産家が、あわてて涙をふきながら彼のもとへ走った。「ありがとうございました! 本当に、他の『破壊師《クラッシャー》』じゃ直してくれなくて、どうしたらいいかと思って……。どんなお礼をしても感謝しきれません! ありがとう!」言って、何度も何度も礼をする。
「礼なんか別にいいです」ドアの前で、謙遜すると言うより突き放す感じで彼は言った。

「あの子の夢、木っ端微塵にしただけだし」